企業コンサルティングの1つ!税理士も活躍する組織再編を紹介
この記事では、税理士が行う業務の一つである組織再編成対応業務について解説します。
税理士の業務としては税務申告や記帳代行などが有名ですが、企業結合や事業分離などといった「組織再編成」という業務があります。
税理士試験の会計科目である簿記論や財務諸表論でも論点として出題されるお馴染みの分野なので、耳にしたことは多いでしょう。
組織再編成とは実際にどんな業務内容なのか、詳しく確認していきましょう。
組織再編成とは
組織再編成の形態
「組織再編成」とは、企業単体あるいは企業グループの効率的な運営を目的として、企業あるいは企業グループの中の事業や人員、あるいは会社そのもの(法人格)を整理することです。
組織再編成の典型例は次のとおりです。
- 2つ以上の企業が1つの企業になる「合併」
- 企業の一部を切り出す「会社分割」
- 企業の株式を新設の親会社へ移転して持株会社を作る「株式移転」
- 企業内の事業が他社へ譲渡される「事業譲渡」
以下、各形態の概要についてそれぞれ簡単に紹介します。
「合併」には、ある企業が既存の企業に吸収される「吸収合併」と、2つ以上の企業が新たに作った企業に吸収される「新設合併」があります。
いずれの合併の場合も、吸収される企業(税務の文脈では「被合併法人」といいます)は合併によって消えてなくなり、吸収した企業(税務の文脈では「合併法人」といいます)が存続します。
「会社分割」には、ある企業の事業が既存の企業へ切り出される「吸収分割」と、ある企業の事業が新設した企業へ切り出される「新設分割」があります。
合併とは異なり、いずれの場合も事業を切り出した企業(税務の文脈では「分割法人」といいます)が消えてなくなることはありません。
「株式移転」は、1社あるいは2社以上の企業が持株会社を作り、それらの企業の株式を持株会社に保有させる組織再編です。
株式移転は低いコストで持株会社を作りたいときに多用される手法です。
「事業譲渡」は、ある企業の事業が既存の企業へ譲渡されることをいいます。
会社分割と似ていますが、会社分割は事業の全部を包括的に承継させる行為である一方、事業譲渡は事業を個別的に移転する行為である点に違いがあります。
組織再編税制
「組織再編税制」とは、平成13年度税制改正によって導入された、企業の組織再編成に適用される税制(主に法人税の税制)のことです。
法人税法の原則によれば、たとえ組織再編成目的であっても、法人の資産が他社に移転した場合はその譲渡益に対して法人税が課税されます。
しかしながら、組織再編成によって法人の資産が移転した直前と直後とを比べてその経済的実態に変更がないと認められる場合は、組織再編税制で「税制適格」とされ、その譲渡益に対する課税を繰り延べるという措置が取られています。
組織再編税制は平成13年度の導入から幾度となく改正されてきました。
税制改正によって、これまでの取り扱いが大きく変わったり、これまでシロだったものがクロになったりすることも多くあるので、毎年の税制改正をきちんとチェックしないと思わぬミスにつながります。
組織再編成等における税理士の業務内容
企業・法人向けコンサルティングサービス
組織再編成関係で税理士が提供する主なサービスは企業・法人に向けたコンサルティングサービスです。コンサルティングサービスの具体例をいくつか紹介します。
- 繰越欠損金を有効活用するための再編ストラクチャーの提案
- 企業が実行しようとしている組織再編が税制適格かどうかの判定
- 買収を計画している非上場企業の株価算定
企業・法人向けコンサルティングサービスは、企業の皆様からの「こういう再編を行うつもりですが税務上問題ありませんか?」という事前相談(事前照会)や、「複数ある再編手法のなかで、当社に最適な選択を教えてください」という問い合わせからスタートします。
サービスを提供するにあたっては、現状把握と見積もりのためのヒアリングを行った上で、一般的な組織再編の方法(態様)や税理士がサポートできる業務内容の説明を行うことが通常です。
その上で、税理士側からサービス料金の見積額を提示し、双方の意思が合致したらサービス契約を締結する、という流れで進みます。
事業再生に向けたアドバイス
事業再生(経営不振に陥った企業を倒産させるのではなく、債務の免除や新たな融資を受けながら企業の再生を目指すことをいいます)関係で税理士が提供する主なサービスは、財務基盤強化に向けたアドバイスの提供や、新たな事業計画策定の支援サービスです。
サービスの具体例をいくつか紹介します。
- 金融機関や債権者との交渉で使うための将来事業計画の作成支援
- 青色欠損金や期限切れ欠損金の有効活用検討
- DES(Debt Equity Swap、債務の株式化)の検討と実行支援
組織再編税制対応に必要な知識とスキル
税制に関する知識
組織再編税制に関するアドバイスを提供するにあたっては、税制に関する知識が必要不可欠です。
組織再編税制に関する知識が必要なことはもちろん、消費税法の論点(例:会社分割の場合は包括承継であることから不課税取引であるが、事業譲渡の場合は課税取引である)や、不動産取得税の論点(例:会社分割の場合、適格分割であれば不動産取得税は非課税であるが、非適格分割の場合は不動産取得税が課税される)など、各種税制に関する幅広い知識も必要です。
会社法に関する基礎知識
組織再編税制に関するアドバイスを提供するにあたっては、会社法(特に第5編)に関する基礎知識も必要です。
組織再編税制における用語(例:合併、分割)は会社法に立脚したものであるため、これらの用語の定義などを確認したいときは会社法の条文を引くことになります。
また、クライアントから「分割の定義を教えてください」などと質問されたときにすぐ回答できるためにも(実際にこのような質問をクライアントから受けることもあります)、会社法に関する基礎知識が必要です。
条文を読むスキル
組織再編税制の条文の複雑さは有名で、組織再編税制の条文を読み解くための書籍も出版されているほどです。
とはいえ、「条文が複雑だから読まなくて良い」とはならないため、なんとかしてこの複雑な条文を読んで理解する必要があります。
こうした条文を読むスキルも組織再編税制対応に必要な能力です。
重要な箇所にマーカーを引いたり、カッコ書きを消したり、政令委任の箇所に当該政令の条文をコピーしたりして、苦労して条文を読むうちに自然とスキルは蓄えられていきます。
条文を読むのが面倒だからと言って、参考書やインターネット上の記事で分かったつもりになっていると、条文を読むスキルを鍛えられないだけでなく、思わぬ落とし穴があってクライアントに迷惑をかける可能性もあります。
まとめ
以上、税理士が行う業務の一つである組織再編成対応業務について解説しました。
「税理士の業務」は記帳代行や確定申告書の作成といった「作業」がメインだと思われがちですが、実は組織再編や事業再生などに関する総合的なアドバイスを提供するようなコンサルタントに近い業務も多く行っています。
組織再編税制対応業務は税制の適用誤りや解釈の間違いを税務調査で指摘されたときの金額的影響が他の税制に比べて大きく、また条文が複雑であることから、税理士の中でも苦手としている人が多い分野ですが、それゆえに組織再編税制の分野に強くなれば他の税理士との差別化を図ることができます。
今後、税理士としてさらなるキャリアアップを目指したい、コンサルタントに近い仕事をしたいと考えるならば、ぜひとも組織再編税制対応業務を多く手掛けている税理士法人への転職を考えてみてはいかがでしょうか。