会計事務所からの転職理由を税理士・科目合格者・スタッフ別に解説
この記事は、
「現在勤務している会計事務所から転職したい思いはあるが踏み切れない。同じ境遇の人の転職理由を知りたい」
「会計事務所から経理職に転職した人は何がキャリアチェンジのきっかけだったか気になる」
「会計事務所に勤務している人の退職理由を教えて欲しい」とお考えの会計事務所勤務者の方に向けて、会計事務所勤務者の主な転職先、転職理由、退職理由を解説した上で、キャリアチェンジを含む実際の転職ケースを3つ紹介します。
それでは会計事務所勤務者の主な転職先から解説しましょう。
会計事務所勤務者の主な転職先
主な転職先はタイプによって異なる
会計事務所勤務者の主な転職先は転職希望者のタイプで異なります。
以下、①税理士・公認会計士、②税理士試験の科目合格者(以下、「科目合格者」といいます)、③①と②に該当しない会計事務所勤務者の3タイプについて、タイプごとの主な転職先について解説します。
なお、この記事における「会計事務所」は、税理士事務所(税理士法人)や公認会計士事務所を含む、「顧客に対して会計と税務を中心にしたサービスを提供する事務所」を意味します。
税理士・公認会計士の主な転職先
税理士・公認会計士の主な転職先は次のとおりです。
- 独立開業
- 事務所から経理職(事業会社の経理部)への転職
- 同じ種類の事務所への転職
- 異なる種類の事務所への転職
税理士・公認会計士は資格を活かした独立開業が可能であるため、他の2つのタイプと比べると転職先のバラエティーが豊富です。
なお、この記事では会計事務所を次の3つに分類して、分類が同じ会計事務所への転職(たとえば、ともにBig4であるPwC税理士法人からKPMG税理士法人への転職)を「同じ種類の事務所への転職」と呼び、分類が異なる会計事務所への転職(たとえば、PwC税理士法人から大手会計事務所の一つである辻本郷税理士法人への転職)を「異なる種類の事務所への転職」と呼びます。
- Big4と呼ばれる国際的会計事務所のメンバーファーム(以下、「Big4」といいます)
- 国内に複数の支店を有する大手会計事務所(以下、「大手会計事務所」といいます)
- 地域密着型の中小会計事務所(以下、「中小会計事務所」といいます)
科目合格者の主な転職先
次に科目合格者の主な転職先は次のとおりです。
- 事務所から経理職(事業会社の経理部)への転職
- 同じ種類の事務所への転職
- 異なる種類の事務所への転職
税理士補助である科目合格者が独立開業することは考えづらいため、税理士・公認会計士よりも選択肢は少なくなっています。
科目合格者であっても、多くのクライアントを抱えていたり、法人税法や消費税法といった科目に合格していたり、税法に関する広い知識と豊富な実務経験を有している人は、事業会社(一般企業)・会計事務所問わず引く手あまたでしょう。
その他のスタッフの主な転職先
最後に、その他のスタッフの主な転職先は次のとおりです。
- 事務所から経理職(事業会社の経理部)への転職
- 同じ種類の事務所への転職
1科目も合格していないスタッフ(多くは新卒や異業界から初めて会計事務所に入所して1年~2年しか経過していないスタッフだと思われます)が異なる種類の事務所への転職を視野に入れるケースはそう多くないと考えられるため、その他のスタッフの主な転職先は科目合格者よりもさらに選択肢が少なくなっています。
転職理由に関する調査と事務所勤務者の主な転職理由
転職理由に関する調査
会計事務所勤務者の転職理由について、残念ながら公的機関による調査は実施されていません。
会計事務所勤務者に限った調査ではありませんが、厚生労働省が実施している「令和2年雇用の構造に関する実態調査(転職者実態調査)」によれば、転職者が直前の勤め先を離職した理由は「自己都合」が最も多く(全体の76.6%)、自己都合による離職理由(3つまで複数回答)の上位5つは次のとおりでした。
- 労働条件(賃金以外)がよくなかったから(28.2%)
- 満足のいく仕事内容でなかったから(26.0%)
- 賃金が低かったから(23.8%)
- 会社の将来に不安を感じたから(23.3%)
- 人間関係がうまくいかなかったから(23.0%)
出典:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/6-18c.html
統計的なデータではありませんが、実体験から、会計事務所勤務者の転職理由は転職者の属性(税理士・公認会計士か、科目合格者か、その他のスタッフか)によって異なります。
以下では、実体験に基づいたそれぞれの主な転職理由を紹介します。
税理士・公認会計士の主な転職理由
税理士・公認会計士の主な転職理由は次のとおりです。
- 独立開業したいから、あるいは近い将来の独立開業を見据えて中小会計事務所での業務経験を積みたいから
- 事務所から経理職(事業会社の経理部)へ転職してワークライフバランスを確保したいから
- 今後のキャリアを鑑みて専門分野(例:相続税、国際税務)に特化していきたいから
1点目について、税理士・公認会計士の資格を持った人は自分の事務所を開くことができるため、資格を取ってから数年の間で独立開業のために退職する人も多くいます。
あるいは、すぐには独立しなくても、Big4や大手会計事務所で勤務していた人が独立準備のために地元の中小会計事務所へ転職するケースもよくあります。
2点目について、会計事務所は一般に繁忙期と閑散期の差が大きく、繁忙期は朝から深夜まで勤務する上に土日祝日も休めないという事務所もあります。
一方、事業会社の経理部は、繁忙期はあれども会計事務所ほど繁閑の差が大きくはなく、繁忙期であっても比較的ワークライフバランスを保ちやすい傾向にあります。
会計事務所での働き方が合わないと感じた税理士や公認会計士が、ワークライフバランスの充実を求めて会計事務所から経理職へ転じることもよくあります。
3点目について、この転職理由は特にBig4や相続税に特化した大手会計事務所へ転職する税理士・公認会計士に多くみられます。
幅広いサービスを提供する大手会計事務所や中小会計事務所では、法人税から所得税まで多くの税目や業種の業務を経験することができる一方、業務経験が「広く浅く」になりがちであり、特定の分野における専門性を磨きづらい傾向にあります。
今後のキャリアを考える上で、特定の分野に関して「狭く深い」業務経験を積んでいきたいと考える税理士や公認会計士がBig4などへ転職していくケースもよく見聞きします。
科目合格者の主な転職理由
科目合格者の主な転職理由は次のとおりです。
- 将来の独立に向けて、中小会計事務所で実務経験を積みたいと思ったから
- 税理士試験に合格することが難しい状況になってきたことを踏まえて、業務に資格が必要ない事業会社の経理職に転職したいと考えたから
- 現在よりも難易度の高い業務や動く金額の大きい業務(例:M&A、移転価格税制対応)に従事したいと考えたから
1点目は税理士・公認会計士の転職理由の詳細と同じです。
2点目について、税理士試験は科目合格制を採用しているとはいえ、働きながら合格科目を積み上げるのは簡単ではありません。
何年も何年もチャレンジして、それでも合格できずにいる人の中には、どこかで税理士や公認会計士への道を諦める決断をして会計事務所から経理職へ転じる人もいます。
事業会社の経理職であれば会計事務所ほど「資格」の重要性は高くないため、最終的に税理士試験に合格できなくても立派なキャリアを築いていくことが可能です。
3点目について、特に若い科目合格者の中には、難易度が高くスケールの大きな業務内容に惹かれて、Big4や大手会計事務所など、自分が勤務する事務所よりも規模の大きな会計事務所への転職を希望するケースもよくあります。
その他のスタッフの主な転職理由
その他のスタッフの主な転職理由は次のとおりです。
- 会計事務所ではなく事業会社でのキャリアを築いていきたいと思ったから
- 給与が低くて生活ができないから
1点目について、これは新卒で会計事務所に入所したスタッフに多い理由です。
会計事務所は事業会社とは違った雰囲気があるため、会計事務所の雰囲気に馴染むことができなかったスタッフも一定数生じます。
そうしたスタッフは、事業会社でのキャリアを求めて、会計事務所から経理職へ転じることがよくあります。
2点目について、昔と比べると上がっては来ているものの、まだまだ給与が低い会計事務所も存在します。
会計事務所の中には税理士になったり、税理士試験の合格科目を積み上げていかないとなかなか昇給しないところもある一方、事業会社はある程度年功序列で給与が上がっているケースも多いため、よりよい給与を求めて事業会社の経理職へ転職するケースもあります。
以上、会計事務所勤務者の主な転職理由を紹介しました。最後に、具体的な転職ケースを3つ紹介します。
転職ケース1:税理士法人から別の種類の会計事務所へ転職
退職理由・転職理由(将来に向けたステップアップ)
1例目は大手会計事務所で勤務するAさんです。
Aさんは税理士試験の科目合格者(簿記論、財務諸表論、法人税法)でまだ年齢も若く、将来は国際税務の分野に強い税理士になることを希望していました。
Aさんが勤務する大手会計事務所は内資系の事務所で、国内税務においては国内でも指折りの事務所でしたが国際税務には弱く、このままだと国際税務の業務経験を積むことができないという理由からAさんは転職を決意しました。
面接におけるアピールポイント
Aさんが転職を希望したのはBig4です。
Big4の場合、求人は概ね常時出ているものの、応募者に要求される水準は高く、税法の知識だけでなく英語力や勉強を継続する姿勢も要求されます。
Aさんは自主的に英語の勉強を継続しており、TOEICでも高い点数を取得していたため、英語の能力と英語の勉強を継続することで着実にTOEICの点数を上げてきたことをアピールしました。
その結果、複数のBig4から内定を獲得し、その中で一番高い年収を提示してきた法人に転職しました。
転職ケース2:税理士法人から同じ種類の会計事務所へ転職
退職理由・転職理由(好きな業界のクライアントの力になりたい)
2例目は中小会計事務所で勤務するBさんです。
Bさんは数年前に飲食店業界から会計事務所での勤務にキャリアチェンジし、簿記1級を取得しました。
税理士試験の合格科目はないものの、現在簿記論と財務諸表論を勉強中です。
Bさんが勤務している会計事務所がメインにしているクライアントの業種は製造業ですが、Bさんは自分が好きな飲食店業界のクライアントの力になりたいという希望を持っていました。
そこで、飲食店業界のクライアントを多く抱える会計事務所への転職を決意しました。
面接におけるアピールポイント
Bさんは税理士試験の合格科目はありませんでしたが、簿記1級を持っていることと現在簿記論と財務諸表論の勉強を行っていることをアピールしました。
合わせて、飲食店業界のクライアントのために力を尽くしたいという熱意を伝えたところ、希望していた会計事務所の内定を獲得することができました。
転職ケース3:税理士法人から経理職へ転職
退職理由・転職理由(事業会社の仕事も経験したい)
3例目はBig4で勤務する税理士のCさんです。
Cさんは新卒で大手会計事務所に入所し、税理士試験に合格したあとBig4に転職しました。
CさんはBig4での業務内容に満足していましたが、まだ若いうちに事業会社の経理部における仕事を経験して将来のキャリアの幅を広げたいという理由から、事業会社への転職を決意しました。
面接におけるアピールポイント
事業会社における面接では、会計事務所と比べると「長く働いてくれるか」や「志望理由」を重視する傾向にあります。
この点、Cさんは応募先企業の製品に対する愛着を伝えた上で、「この製品を世界に広げるために、長い期間貢献していきたい」とアピールすることで面接を突破することができました。
まとめ
以上、会計事務所勤務者の主な転職先と転職理由及び退職理由を解説し、その後でキャリアチェンジを含む実際の転職ケースを3つ紹介しました。
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