税理士が活躍する事業再生の業務内容について紹介
この記事では、税理士が行う業務の一つである事業再生業務について解説します。
「事業再生」というと裁判所が関与する公的再生手続を想起する方も多いでしょうが、実は裁判所が関与しない私的再生手続も多く実施されています。
税理士は、主にこの私的再生手続に深く関与し、経営状況や資金繰りが悪化した企業に対して資金繰りや経営に関する助言を行い、これらの企業の経営が改善するための支援を行っています。
事業再生とは実際にどんな業務内容なのか、詳しく確認していきましょう。
事業再生とその手続きは?
事業再生とは?
「事業再生」とは、一言でいうと「不健康になった企業経営を健康な状態に戻す」ことです。
企業経営が「健康な状態」とは、売上が順調に伸び、資金繰りも好調で、不良債権や不良在庫がない状態のことを指します。
事業再生はしばしば医業にたとえられます。
不健康な状態あるいは病気になった患者(企業)に対して、医者(税理士や事業再生に関与する専門家)が生活習慣に関する助言をしたり、症状によっては投薬や手術をしたりすることで、その患者(企業)が健康を取り戻すためのサポートを行う点が医業と類似しているためです。
事業再生が必要な場面
事業再生が必要な場面は、企業経営が窮境状態(事業が上手く回らない状態)に陥った、あるいは窮境状態に陥るリスクが顕在化しそうになる場面です。
医業の例で言うと、患者が病気になった、あるいは病気になるリスクが高まっている場面だと考えてください。
患者が自身の病気を放置したり病気になるリスクに対して何のアクションも起こさなかったりすると、徐々に病状が悪化して最後には死に至ります。
事業再生もこれと同じで、企業が自社の窮境状態を放置したり窮境状態に陥るリスクに目をつぶっていたりすると、最後には企業の死、つまり廃業が待っています。
「事業再生は企業の死を避けるための治療」と捉えると、スムーズに理解していただけるかと思います。
事業再生の種類
事業再生を種類分けするにあたっては二つの軸があります。
一つ目の軸は「法的再生か私的再生か」で、もう一つの軸は「再建型か清算型か」です。
事業再生の種類は、これら二つの軸をかけ合わせた四種類です。
- 法的再生(再建型)
- 法的再生(清算型)
- 私的再生(再建型)
- 私的再生(清算型)
法的再生と私的再生
法的再生(「法的整理」ともいいます)は裁判所の関与のもとで行われる再生の手法です。
法的再生が「法的」と呼ばれるのは、裁判所の関与を受け、また民事再生法や会社更生法を準拠法としているためです。法的再生のメリットとデメリットは次のとおりです。
【メリット】
- 裁判所が関与する手続であるため手続の公平性や透明性が担保される
- 事業再生に反対する債権者がいても手続が進む可能性もある
【デメリット】
- 法的再生を行っていることが世間に知られて企業イメージが毀損する
- 手続に費用(弁護士費用など)が必要
一方、私的再生(「私的整理」ともいいます)は裁判外において債権者や利害関係者との間の話し合いによって行われる再生の手法です(このため「私的再生」と呼ばれます)。
私的再生のメリットとデメリットは次のとおりです。
【メリット】
- 再生中であることが世間に知られないため企業イメージの毀損を防ぐことができる
- 裁判所を介さないため手続にかかる費用が少ない
【デメリット】
- 再生手法に反対する債権者がいると手続が進まない
- 手続の公平性や透明性が担保されない
法的再生と私的再生のメリットとデメリットは表裏一体の関係にあるため、窮境状態にある企業が置かれた環境に応じて適切な手法を選択していく必要があります。
再建型と清算型
再建型は、企業が今後も事業を継続することを念頭にした手法です。
この手法の目的は「企業の病気を治療して元気な状態まで戻す」ことです。
一方、清算型は企業の清算(法人格の消滅)をスムーズに実施することを念頭にした手法です。
この手法の目的は「企業がソフトランディングな死を迎えて、残された経営者の今後の生活を守る」ことです。
事業再生の流れ
事業再生の流れは次のとおりです。
- 企業の財務状況や事業環境などを把握する
- 現状と経営者の意向に沿った再生手法を選択する
- 再生計画を策定する
- 再生計画を実行する
このうち、1の「事業環境の把握」は中小企業診断士、4の「再生計画の実行」(特に法的再生)は弁護士の得意分野ですが、それ以外の領域に関しては税理士が強みを発揮することができます。
以下では、事業再生において税理士が活躍できる場面について解説します。
税理士が活躍できる場面は?
顧問先企業への提案
我々が健康診断を受けて初めて自分の病気(あるいはその兆候)に気づくのと同じように、企業の経営者も自社の「健康状態の悪化」にはなかなか気づきにくいものです。
こうした企業の健康状態の悪化に気づくのは、「中小企業のホームドクター」的な存在である顧問税理士であることが多いです。
企業の経営者が顧問税理士に期待する役割は会計税務周りの業務だけではありません。
2020年版「小規模企業白書」(中小企業庁)によれば、経営者の日常の相談相手として最も回答が多いのは「税理士・公認会計士」であることが示されています。
出典:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/shokibo/b3_2_4.html
会計税務の知識を持ち、かつ企業の経営者から経営に関する日常の相談相手として信頼されている顧問税理士は、経営者に対して事業再生手続の検討を進言できる貴重な存在です。
事業再生手続を検討する必要があるということは企業の経営がうまく回っていないことを意味するので、経営者にとっては耳の痛い話になるでしょうし、怒り出す経営者もいるかも知れません。
それでも、このまま現状を放置すると経営状態が悪化の一方を辿って最終的には周りに迷惑をかける結果になることや、今の時点で必要な対処をすれば企業が立ち直る可能性もあることなどを粘り強く説明して、事業再生に向けた一歩を踏み出させることが、顧問税理士としての重要な役割であり、事業再生において税理士が特に活躍できる場面でもあります。
財務状況の把握
企業の経営者が事業再生の検討に同意したら、次に税理士が行うべきことは財務状況の把握です。
財務状況の把握は「財務デューデリジェンス」とも呼ばれ、企業の債権・債務に関する調査、借入金の状況確認、金融機関との関係性のチェックなどが主要な業務です。
いずれも、月次で企業を訪問している顧問税理士であれば把握しているような情報ですが、企業との接触が少なくて顧問税理士が十分な情報を持っていない場合は、この段階で調査を行う必要があります。
再生手法の選択
財務状況の把握が完了したら、次に再生手法の選択を行います。
企業の経営者の意向どおりの再生手法を選択できればベストですが、企業の財務状況によっては意向に沿わない手法を提案せざるを得ない場面もあります。
たとえば、企業の経営者は企業の存続を強く望んで「再建型」の再生手法を取りたいと考えているが、企業が抱えている債務の額や事業環境からすると「清算型」を取らざるを得ない、といった場面です。
こうした場面で経営者を説得するのも顧問税理士の重要な役割です(なお、経営者が自分による再建に拘らないのであれば、事業譲渡による再建も一つの方法です)。
また、再生手法の選択においては税金面での検討も必須であり、この点は税理士が得意としている分野です。
「税金面での検討」を行う際は、法人税・所得税や消費税の検討だけではなく、登録免許税や印紙税といった税金も考慮する必要があります。
再生計画の策定と実行支援
再生手法の選択が完了したら、次の段階は再生計画の策定と計画の実行です。
再生計画の策定のうち事業計画部分は中小企業診断士が、再生計画の実行(特に法的再生)は弁護士が、それぞれ強みを発揮することになるため、税理士は税務面での支援や経営者の相談相手といった役割を果たします。
事業再生業務を経験できる税理士の転職先は?
大手税理士法人
大手税理士法人であればどこでも事業再生に関するサービスを提供しているでしょうが、大手税理士法人は業務が細分化されているため、アサインされるチームによっては事業再生業務にまったく関与できない可能性もあります。
事業再生業務を経験したいのであれば、転職の面接時にその旨を伝えると、入社後に事業再生業務に関与できる可能性が高くなるでしょう。
中小の税理士事務所や会計事務所
中小の税理士事務所(税理士法人)や会計事務所であれば、顧問先だけでなく商工会議所の会員や一般の経営者からも事業再生に関する相談を受ける可能性があります。
ただし、税理士事務所や会計事務所の規模や特徴(例:特化しているサービス)によっては、事業再生業務を受注した実績がない可能性もあるので、転職の面談時に確認するようにしましょう。
その他
弁護士法人や金融機関へ転職する場合も事業再生業務に関与できる可能性があります。
一方で、事業会社に転職すると、その事業会社が事業再生を行う場合以外は事業再生業務に関与することは難しくなるため、事業再生業務を経験したいのであれば事業会社への転職は避けるでしょう。
まとめ
以上、税理士が行う業務の一つである事業再生業務について解説しました。
事業再生業務は、組織再編成対応業務と比べると簿記論や財務諸表論あるいは法人税法の勉強で出てくる頻度が低いので、あまり馴染みのない方も多かったのではないかと思います。
この記事を読んで、事業再生業務に携わりたいと思った方は、ぜひとも事業再生業務を多く手掛けている税理士法人、会計事務所、あるいは弁護士法人や金融機関への転職を考えてみてはいかがでしょうか。