SPC税務の業務内容や税理士に必要なスキルを紹介
この記事では、税理士が行う業務の一つであるSPCの税務業務について解説します。
「SPC」とは「Special Purpose Company」の略で、「ある特別な目的(特定の目的)を果たすために設立された会社」を指します。
「特別な目的」の典型例としては、たとえば「不動産の証券化」が挙げられます。
SPCの税務業務には事業会社には出て来ない特有の論点があることから、税理士であってもSPCの対応に苦手意識を持つ方が多くいます。
そのため、SPCの業務に関しての知識と経験を持つ税理士は、SPC業界でかなり引く手あまたなプレーヤーとなりうる存在で、転職先も決まりやすい傾向にあります。
SPCの税務業務とは実際にどんな業務内容なのか、詳しく確認していきましょう。
SPCの税務業務とは?
そもそもSPCとは何か
上述したとおり、「SPC」とは「Special Purpose Company」の頭文字を取ったものであり、日本語では「特別目的会社」と訳されます。
SPCは、倒産隔離や流動性の向上を目的に設立される法人であり、このうち「資産の流動化に関する法律」を根拠法として設立される法人を「TMK(Tokutei Mokuteki Kaisya)」あるいは「特定目的会社」といいます。
SPCはしばしば、「投資対象と投資家をつなぐ導管」に例えられます。
この関係の中でSPCが果たすのは「器(ビークル)」としての役割にとどまり、SPCそれ自体が一般の事業会社のような活動を行うことはありません。
この点を捉えて、「SPCは事業活動の実態に乏しいペーパーカンパニーのようなもの」だと考えると理解がスムーズです。
SPCの税務業務の内容
SPCの税務業務は大きく分けて次の2つに分かれます。
- 検討フェイズ(SPCのスキーム検討等)
- 運用フェイズ(SPCの経理、税務業務等)
以下、それぞれのフェイズにおける税務業務の概要について簡単に解説します。
検討フェイズ
まずは検討フェイズについて解説します。SPCを活用した投資スキームのうち、主要なものは次の2つです。
- 合同会社・匿名組合を使ったスキーム(GK・TKスキーム)
- 特定目的会社を使ったスキーム(TMKスキーム)
1の「GK・TKスキーム」は、会社法上の会社(多くは設立が容易な合同会社、しばしば「GK」と略されます)を設立して、投資家から匿名組合(しばしば「TK」と略されます)を通じた投資を受け入れるスキームです。
一方、2の「TMKスキーム」は資産の流動化に関する法律上の会社である特定目的会社(TMK)を設立するスキームです。
1の場合も2の場合も、「器(ビークル)自体への課税をされないこと(これを「パススルー課税」といいます)により、器と投資家とで二重課税の状態になることを避ける」というスキームを組成することが可能です。
もっとも、パススルー課税を実現するためには、とりわけ特定目的会社の場合はいくつか租税特別措置法上のハードルがある点に留意が必要です。
こうした租税特別措置法上のハードルを検討してそれをクリアするようなスキームを組成する、というのが検討フェイズにおけるSPCの主要な税務業務です。
運用フェイズ
次に運用フェイズについて解説します。先ほど説明したとおり、SPCは「器」の会社です。
そのため、日常の仕訳数は一般の事業会社に比べると遥かに少なく、また会計・税務上の論点は検討フェイズで十分に確認されるため、運用フェイズになって重大な会計・税務上の論点が出現することは通常ありません。
運用フェイズになると仕訳の投入や税務申告書の作成といったルーティンワークが多くなるため、SPCの税務業務を経験したいのであれば、検討フェイズ(できれば検討フェイズの初期段階)からプロジェクトに参画できると非常によい経験になりますし、SPCの税務業務に関するスキルの蓄積にもつながります。
税理士がSPC業界に転職するには?
転職先候補となる業界は?
税理士がSPC業界に転職する場合、転職先の候補となる業界は①会計事務所・税理士法人等のプロフェッショナルファームと、②金融機関や投資ファンド等が考えられます。
以下、これら2種類の転職先について解説します。
候補1:会計事務所等
1つ目は会計事務所・税理士法人等のプロフェッショナルファームです。
一般的は事業会社では、SPCのスキーム検討や会計・税務に関する論点の洗い出しを行ったことはなく、またそれらを行うことができる人材が社内にいることも通常ないため、新たにSPCを組成して何らかの事業を行う際は、会計事務所や税理士法人などのプロフェッショナルファームにサポートを依頼するのが普通です。
この点、会計事務所等に所属していれば、このようなクライアントからの相談に対応したり、クライアントに対して必要な情報を提供する機会も多いため、SPCの税務業務(特に検討フェイズ)に関する経験を積むことが可能です。
SPC業界に転職するにあたって転職先として会計事務所等を選択するメリットとデメリットは次のとおりです。
- メリット:多くのプロジェクトに少しずつ関与できるため、経験数が増え、色々なバリエーションのSPCスキームを経験することができる
- デメリット:クライアントのニーズに応じて税務に特化したアドバイスを提供するため、プロジェクト全体を見通して論点を検討する経験を積むことが困難
候補2:金融機関や投資ファンド
2つ目は金融機関や投資ファンドです。金融機関や投資ファンドのSPCをよく利用する部門で働くことができれば、SPCの税務業務についても深く関与することが可能です。
SPC業界に転職するにあたって転職先として金融機関や投資ファンドを選択するメリットとデメリットは次のとおりです。
- メリット:担当者としてプロジェクトの検討フェイズの初期から運用フェイズに至るまで関与できることから、プロジェクト全体に対する知識と経験を蓄積することができる
- デメリット:プロジェクトに関与できる数が相対的に少なくなるため、経験のバリエーションが少なくなる
SPC業界で活躍するために必要な経験とスキル
会計事務所等・投資ファンド等の双方においてSPCの税務業務を担当した経験があれば、SPC業界ですぐにでも活躍できるでしょうが、なかなか双方における勤務経験を持つ人はいないのが現状です。
どちらか一方、あるいはどちらの勤務経験もなかったとしても、法人税法・租税特別措置法に関する税務の専門知識に加えて、会社法、民法、資産の流動化に関する法律などの関連する法規に関する知識があれば、面接での合格を勝ち取ってSPC業界で活躍することができるでしょう。
なお、SPCの業務は社内の他部門や他社(他事務所)と一緒に仕事をすることも多くあります。
他社や他事務所と円滑に業務を進めていけるプロジェクト管理能力やコミュニケーション能力といったスキルも、SPC業界で活躍するためには必要です。
まとめ
以上、税理士が行う業務の一つであるSPCの税務業務について解説しました。
SPCに関する税務業務は一般企業の税務業務と比べるとマイナーではありますが、得意とする税理士が少ない分野でもあるので、SPCの税務業務に関する知識と経験を積んでSPC税務に特化した税理士になるのも面白いキャリアパスだと思います。
この記事を読んで、転職をしてSPCに関する税務業務に携わりたいと思った方は、ぜひともSPC対応を得意とする会計事務所や税理士法人、あるいは金融機関や投資ファンドへの転職を考えてみてはいかがでしょうか。